開発の説明に入る前に、ライブ配信市場について簡単にご紹介します。
ライブ配信アプリケーションは、インターネットとモバイル技術の進化に伴い、近年急速に成長している市場です。
これらのアプリケーションは、リアルタイムでの映像や音声の配信を可能にし、ユーザーは自分の生活、イベント、趣味などを世界中の視聴者と共有することができます。
この市場の急速な成長は、いくつかの要因によって支えられています。
まず、スマートフォンの普及と高性能化がライブ配信アプリの普及を後押ししています。
スマートフォンはもはや単なる通信手段ではなく、高品質なカメラと高速なインターネット接続を備えた多機能デバイスとなっています。
これにより、誰もが簡単にライブ配信を行うことができる環境が整いました。
さらに、モバイルデータの高速化、特に5Gの普及により、ライブストリーミングの品質と安定性が大幅に向上しました。
次に、ソーシャルメディアプラットフォームとの統合がライブ配信アプリの人気を高めています。
Facebook、Instagram、YouTubeなどの主要なソーシャルメディアプラットフォームは、ライブ配信機能を取り入れ、ユーザーが既存のフォロワーベースに対してリアルタイムでコンテンツを共有できるようにしました。
この統合により、ライブ配信はより身近なものとなり、多くのユーザーが気軽に利用できるようになっています。
ビジネスの観点から見ると、ライブ配信アプリは多くの収益化の機会を提供しています。
視聴者からの直接の投げ銭やギフト、広告収入、プレミアムコンテンツの提供など、多様な収益モデルが存在します。
特に、視聴者が好きな配信者に対して直接支援できるシステムは、クリエイターエコノミーの発展に寄与しています。
これにより、個人が趣味や特技を生かして収入を得ることが可能となり、多くの新しいインフルエンサーやコンテンツクリエイターが登場しています。
しかし、ライブ配信市場にはいくつかの課題も存在します。
コンテンツの品質管理や著作権侵害、プライバシーの保護などが重要な課題として挙げられます。
また、ライブ配信はリアルタイム性が高いため、不適切なコンテンツやフェイクニュースの拡散を防ぐための監視と管理が求められます。
これらの課題に対応するため、ライブ配信アプリの提供者は、AI技術を活用した自動監視システムの導入や、ユーザー報告機能の強化などの対策を進めています。
ライブ配信アプリケーション市場は、技術の進化とユーザーのニーズの変化に柔軟に対応しながら、今後も成長を続けるでしょう。
その成長は、私たちのコミュニケーションやエンターテインメントの在り方を大きく変える可能性を秘めています。
Amazon IVSはHLS形式での動画配信を簡単に実現できるクラウドサービスです。クライアント側のSDKも提供されており、開発期間やコストを軽減できます。品質面では約3秒ほどの低遅延を実現できます。詳細は公式ドキュメントをご参照ください。
Agoraは独自プロトコルでの動画配信を簡単に実現できるPaaSとなっています。最近ではCPaaS(Communications Platform as a Service)と表現される場合もあります。Amazon IVSと同様にクライアント側のSDKを提供し、かつ、豊富なサンプルが公開されていますので開発期間やコストを軽減できます。又、SDKにはライブ配信に必要なAPIが多数用意されており、機能追加も積極的に実施されています。日本国内では30ms〜200msの低遅延を実現しています。
Tencent Cloud CSSはライブ音声およびビデオストリーミングのための包括的なソリューションを提供します。
このサービスは、Tencentの強力な音声・映像プラットフォームとグローバルアクセラレーションノードを活用し、低遅延、高画質、プロフェッショナルなビデオ処理を実現します。
CSSはRTMP、HLS、SRTなどのさまざまなストリーミングプロトコルをサポートし、クロスプラットフォーム互換性を提供します。
さらに、リアルタイム字幕、自動ビットレート調整、コンテンツ保護などの高度な機能を備えています。
このサービスは、eコマース、教育、ライブショー、スポーツ、ゲームなど多様な用途に対応しており、シームレスな統合と高いパフォーマンスを保証します。
CSSは、信頼性の高い高品質なストリーミング体験を提供することで、視聴者の満足度を向上させ、エンゲージメントを高めることができます。
また、ユーザーのニーズに合わせて柔軟にカスタマイズ可能であり、迅速かつ効率的なライブストリーミングを実現します。
配信技術については前述のIVSやAgora以外にもWowzaやAzureなどたくさんのプラットフォームがあります。選定して1つに絞る必要がありますが、開発終盤に実は要件を満たしていないプラットフォームであれば0から作り直しという羽目に陥ります。参考としては、以下のポイントを確認すればよいかと思います。
トライアルがあれば最低限のプロトタイプを作成し、要件を満たせているか確認する事をおすすめします。
IVSもAgoraもSDKを利用すれば簡単に配信と視聴部分が実装できます。以下はAgoraのAndroidアプリの実装例です。数行のコードで実装可能な為、配信以外の機能開発に時間をさくことができます。
//SDKの初期化
mRtcEngine = RtcEngine.create(context, appid, eventHandler);
//映像・音声の取得と描画
mRtcEngine.setupLocalVideo(videoCanvas);
//映像音声の有効化
mRtcEngine.enableVideo();
//チャネル接続と配信
mRtcEngine.joinChannel(token, channelName, info, uid);
//配信終了
mRtcEngine.leaveChannel();
//SDKの初期化
mRtcEngine = RtcEngine.create(context, appid, eventHandler);
//チャンネル接続
mRtcEngine.joinChannel(token, channelName, info, uid);
//他拠点の映像・音声取得
mRtcEngine.setupRemoteVideo(videoCanvas);
//退室
mRtcEngine.leaveChannel();
ライブ配信サービスを提供する際、「Androidのみ」とか「iOSのみ」というパターンは少ないかと思います。基本的には同時開発する必要があります。AgoraはFlutter、ReactNative、UnityのSDKを提供しているのでさらに開発期間の短縮が可能になります。
録画はサービス展開する上で非常に重要な機能です。エンタメ系のサービスだと見逃し配信、教育系であれば復習用、エンタープライズ系であれば事後確認、面接系であれば複数人でのチェック等活用の幅があります。
IVSでは配信設定の時にS3への保存設定を同時に行います。
Agoraではオンプレミス型の録画SDKと、クラウド型の録画を提供しています。オンプレミス型の場合は、自社のサーバーにアプリを組み込み録画します。クラウド型はAgoraのサーバーで録画プロセスが動き、最終的に自社で用意していただくクラウドストレージに転送されます。S3やAzure、GCP等に保存可能です。
ライブ配信技術では映像に注目しがちですが、音声技術も非常に重要です。スマホでは通話用とメディアプレイヤー用の音声システムを持っており、利用用途やシーンによってはチューニングする必要があります。
Agoraは音声についても多くのAPIを提供しています。以下が一部の例になります。
ストレスの無い音声を視聴者に届ける事でユーザー満足度が向上する場合もあります。また、メタバースに有効な空間オーディオ機能もリリースされました。
この記事ではライブ配信アプリ開発の概要を解説しました。ブイキューブが開催しているセミナーではもう少し詳細な内容や小ネタを紹介していますので是非ご参加ください。