水処理の総合エンジニアリング企業であるオルガノでは、発電所や浄水場、各種工場などに水処理装置を納入するプラント事業を展開している。同事業では納入機器の検査を行う部門があるが、検査員にとって技能やスキルを身につけるためには経験が求められ、OJTによる現場での教育が必須となっていた。また、海外展開を進める中、国内からスタッフを複数名派遣する時間やコストが課題となっていた。そこで同社では、コニカミノルタ製のメガネ型ウェアラブル端末「ウェアラブルコミュニケーター」(WCc)向けの遠隔作業支援ソリューション「Smart Eye Sync」による実証実験を国内外で行い、検査員をどこまで遠隔で支援できるのか検証した。
検査員が1人で現場で検査できるようになるためには、経験を積んだ検査員が同行しOJTによる教育を行う必要があり、人的な工数が増えてしまう。
海外における納入機器検査のために国内から検査員を複数名派遣するのは、移動時間やコスト面での負荷が大きい。
スマホで撮影した画像や映像は、実際の検査員の視線と角度や視野が異なるため、写真や映像を見ながらの電話では、話が食い違うなど、検査員の見ている状況が伝わらない。
現場の検査員が装着したメガネ型ウェアラブル端末の映像を、本社側で確認しながら検査員に指示を出すことで、現場作業を遠隔支援。
遠隔作業支援ソリューション「Smart Eye Sync」により、検査員の視線と同じ映像を本社のパソコン画面で共有しながら、音声でコミュニケーションを取ることが可能。
海外の現場でも4G回線が活用できるエリアであれば、検査員のメガネ型ウェアラブル端末の映像を、日本国内の本社のパソコン画面と同期してコミュニケーションできる。
マレーシアの現場における実証実験でも、ストレスなく遠隔支援が行えることを確認。国内の実証実験と遜色のない結果となった。
本社側では検査員の視線をチェックすることで、必要な検査が行われているかを把握。サポート内容も、検査員のウェアラブルディスプレイに同期できる。
検査員の視線の映像に対して本社側のパソコン画面で書き込みをすると、書き込み内容が検査員のウェアラブル端末に立体的な映像(ホログラム)として表示されるため、検査員と本社側が常に同じ内容を共有できる。
現場作業を妨げない装着性であり、両手が空き、視界を遮らないなど、検査員が安全に作業できること。
細かい部分もクリアな映像で共有でき、正確な判断や支援が行えること。
Smart Eye Syncを活用して現場の検査員を本社から遠隔支援する実証実験は「ウェアラブル端末はどう使えるのか?」という観点から始まったものです。検査員は経験を積まないと、1人で現場検査に行って対応できないため、経験の浅い検査員はつきっきりで教育する必要がありマンパワーと時間がかかっていました。そこで、Smart Eye SyncとWCcを組み合わせてを使うことで、検査員を単独で現場に行かせて本社側でバックアップすると、どこまで支援できるのかを検証したいと考えました。
国内だけでなくマレーシアの現場とも実証実験を行いましたが、映像も音声もクリアでスムーズなコミュニケーションが取れたことから「使える」という手応えを感じています。
また、基本的には検査業務をメインに考えていましたが、実証実験を通じ、色々な使い方が見えてきました。例えば、現場でトラブルが発生した時にこれを使って、本社と現場をつないでリアルタイムで見ながら対応を検討するといった活用法です。(木嶋 優 氏)
私はIoTの活用を推進する立場のため、2年ほど前からウェアラブル端末やAIなどの新しい技術を自社業務に適用できないか検討しています。実は2年ほど前に、別のウェアラブル端末をレンタルして試用してみたことがありました。
その時は装着性への不満の声が多かったほか、解像度が低く本社側で見たい細かい箇所が見えづらいなどの課題がありました。今回のSmart Eye Syncを活用した実証実験では、一番重視したのが装着性やかけ心地でした。現場の検査員はヘルメットをかぶるなど色々なものを装備し制限のある場所で作業するため、装着性が悪いと作業に集中できません。実験に参加した検査員は、現場作業に適していると評価していました。(本宮 明紘 氏)
現場でウェアラブル端末を装着して実際の検査をする立場で実証実験に参加しました。外観の色味や微妙な段差の具合は、自分1人では判断しきれない場合があります。本社との間で高い解像度の映像が共有でき、リアルタイムで相談して自分は作業に集中できるのは、スマホではできないことだと思います。とても安心感がありました。
特に工場では色々な環境音が混ざり「こちらの声は本社に聞こえるのか?」という心配もしていたのですが、音声によるコミュニケーションもスムーズでした。(中山 優 氏)
オルガノでは2018年2月、国内および国外において検査員がコニカミノルタ製のメガネ型ウェアラブル端末「WCc」を装着し、本社のパソコンで映像を共有しながら遠隔支援を受ける実証実験を実施。検査員(操作者)側および本社(指示者)側で端末性能、通信性能、コミュニケーションの適切さなど17項目のチェックを行った。
精度の高い映像を本社側で共有できることから、遠隔であっても的確な指示を与えることができる手応えがあった。
映像や音声コミュニケーションがストレスなく行え、マレーシアとの間でもスムーズに遠隔支援が可能であった。
検査の遠隔支援の有効性を確認するための実証実験であったが、トラブルの発生時に状況確認を行ったり、メンテナンス業務などでもSmart Eye Syncを活用できるのではないかというアイディアも生まれている。
また、水処理設備の納入先にメガネ型ウェアラブル端末を常備し、納入先担当者が現場の映像をオルガノと共有することで、スタッフ派遣の必要性などの判断に活用することも視野に入れている。
ウェアラブルコミュニケーター(WCc: Wearable Communicator)
独自技術のホログラフィック光学素子により、従来のヘッドマウントディスプレイにおいて課題として挙げられていた「大きい、重い、視界を遮る」を解決。
ハンズフリーで作業しながら、用途に応じた情報をリアルタイムに受け取ることができ、業務の効率化が図ることができる。
Smart Eye Sync(スマートアイシンク)
クリアで解像度の高い映像や音声を、検査員と本社間でリアルタイム共有。
Smart Eye Syncでは、パソコン画面への書き込みをWCcにホログラムで表示することもできるため、現場作業の遠隔支援に適している。