「稼働中のPBXが耐用年数を迎えるためリプレイスが必要」「PBXの運用にかかる負荷を減らしたい」といった場合、クラウドPBXの導入が候補に挙がるでしょう。クラウドPBXとはクラウド上にPBX機能を構築し、インターネット回線による通話を可能とする仕組みです。
クラウドPBXは導入や運用にかかる手間やコストを抑えやすいなどメリットの多いサービスですが、導入前のリサーチを怠ると機能に満足できなかったりトラブルが発生したりするリスクがあるため、注意しなければなりません。本記事では、クラウドPBXの失敗事例とその原因、導入に失敗しないための対策を紹介します。クラウドPBXの導入を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
クラウドPBXの導入時によくある失敗のひとつは、従来の電話回線を使用していたときと比較して、通信品質が低下するというものです。例えば、音声の途切れや、遅れ、ノイズなどの発生によって、聞き取りにくいと感じる現象が該当します。
株式会社グラントンが実施した電話対応業務に関するアンケートでも、クラウドPBXを導入する際の懸念事項として「品質や安定度に不安があった(20.5%)」という回答が目立ちました。
通話品質の低下が業務に与えるリスクには、次のようなものが考えられます。
クラウドPBXはインターネット回線を使って音声データを送受信するため、通信環境の安定性が通話品質を左右します。
インターネット接続が不安定になる要因には、次のような状況が考えられるでしょう。
原因 |
状況 |
ネットワーク帯域幅の不足 |
既存のネットワークが、クラウドPBXに必要なデータ通信量をサポートできていない |
ISPの品質不足 |
インターネットサービスプロバイダー(ISP)が低品質で、通信の過負荷が発生しやすい |
ネットワーク環境の設定不備 |
ルーターやスイッチ等の設定が最適化されておらず、音声データの送受信がスムーズにできない |
これらを原因とする通話品質の低下には、複数の対策が可能です。
対策 |
詳細 |
ネットワーク帯域の確保 |
ネットワークモニタリングなどの実施によってクラウドPBXが必要とする帯域を確認し、ネットワーク環境のアップグレードや新たな通信環境の導入を行う |
通信優先度の設定(QoS) |
ネットワーク機器でQoS(Quality of Service)の設定を行い、クラウドPBXの音声データを優先的に送受信させる |
複数のISPの利用 |
インターネット接続の冗長化(複数の回線やプロバイダー、ルーターなどを用意すること)し、ひとつのISPに依存するリスクを軽減する |
有線接続の選択 |
モバイルデバイス以外は、Wi-Fi接続ではなく有線LANで接続することで、壁や天井などの障害物による影響を回避する |
トライアルによる検証 |
クラウドPBXの導入前にトライアル期間を活用し、実際の通話品質を確かめる |
クラウドPBXの提供事業者の多くは、導入前にトライアル期間を設けています。トライアルでは、実際の通常業務が行われる環境下で、次のような点をチェックすることが重要です。
また、機能の使いやすさやセキュリティ、サポートなども同時にチェックしておけば、導入時の課題も洗い出せるためスムーズな導入が実現できるでしょう。
クラウドPBXの導入においてセキュリティ対策が不十分だったために、企業として重大なダメージを被るという失敗事例もあり得ます。この問題は、クラウドPBXによる通話がインターネットを介して動作しており、外部からの不正アクセスやデータ漏えいリスクを持つことに起因します。
実際に、こうしたリスクが現実化した場合の影響は、次のようなものです。
セキュリティ対策のポイントは、次の3点です。ここでは、それぞれの対策が不十分となる原因とともに、適切な対応方法を解説します。
クラウドPBXは、外部のサービス提供事業者によって運営されているため、セキュリティ対策自体をその事業者任せにしてしまう場合があります。しかし、そもそも事業者のセキュリティ対策が不十分である場合、ユーザーである企業が危険を回避することはできません。
こうした事態が起こる主な原因には、次のようなものが考えられます。
これらのリスクを避けるための対策は、以下の通りです。
対策 |
詳細 |
セキュリティポリシーの確認 |
サービス提供事業者が二段階認証やデータのバックアップなど、必要なセキュリティ対策を取っているかどうかを事前にチェックする |
暗号化通信の有無の確認 |
通話データが暗号化されているか、データセンターへのアクセス制限が適切に設定されているかなど、データ保護の方法を確認する |
セキュリティ監査報告の要求 |
定期的にセキュリティ監査の実施・報告を行っているなど、リスク管理の透明性を重視して事業者を選ぶ |
クラウドPBXのサービス提供事業者を選定する際は、プランの内容や料金だけでなく、セキュリティ対策の内容も吟味し、より信頼性の高いサービスを選択しましょう。
クラウドPBXに限らず、クラウドサービスを利用する際には社内ネットワークと外部のインターネット環境の間で通信が発生します。そのため、社内ネットワークのセキュリティ対策が不十分である場合も、外部からの攻撃や不正アクセスが発生するリスクが高まります。
その主な原因は、次の通りです。
これらの事態に対しては、以下のような基本の対策を徹底することが重要です。
対策 |
詳細 |
ファイアウォールの設定 |
社内ネットワークとインターネット環境の間に設けるセキュリティ対策であるファイアウォールを設定し、外部からの不正アクセスやサイバー攻撃に備える |
VPNの導入 |
社外からクラウドPBXに接続する際は、仮想プライベートネットワークであるVPNを使用し、通信の安全性を確保する |
定期的なソフトウェアの更新 |
ネットワーク機器やOSを定期的に更新する仕組みを整え、最新のセキュリティパッチを適用できるようにする |
システム面でのセキュリティ対策はもちろん不可欠ですが、「人」という脆弱性も意識しないと、結果的に社内データが外部に漏れたり、サイバー攻撃の被害に遭ったりすることがあります。
人が原因となるセキュリティ対策の不十分さは、次のものが代表例です。
従業員の行動からセキュリティ対策を講じるには、次のような方法があります。
対策 |
詳細 |
セキュリティポリシーの策定 |
従業員が遵守すべきセキュリティに関するルールを設け、周知徹底を促す |
定期的なセキュリティ研修 |
従業員が最新のセキュリティ脅威を理解する機会を設け、公共のフリーWi-Fiを利用したり、不審なメールやリンクにアクセスしたりしないようにする |
パスワード管理の徹底 |
強力なパスワードの設定と定期的な更新を義務づけたり、パスワード管理ツールを導入したりすることで、セキュリティを強化する |
クラウドPBXの提供事業者は数多くあり、機能や料金の異なる複数のプランを提供しています。そのため、自社のニーズに合わないプランの選択による機能不足や、不要なコストの発生といった問題が出るのも失敗事例のひとつです。
例えば、規模の大きい組織で最も安価なプランを選択した場合、必要な機能が揃っていないことによる業務効率の低下が起こることがあるでしょう。逆に、基本的な通話機能のみで十分な小規模企業で、高度な分析機能を含んだプランを選択してしまうケースも考えられます。
こうしたプラン選択の失敗は、次のような影響を及ぼします。
クラウドPBXのプランは、基本的な通話機能から多機能なオプションまで幅広く提供されているため、企業ニーズとプランのマッチング不足がプラン選択の主な失敗要因です。
具体的には、次のようなことが考えられるでしょう。
原因 |
状況 |
企業ニーズの把握不足 |
企業規模や通話量、組織の成長予測の把握をしておらず、プラン選択に必要な情報がわからない |
コスト重視 |
コストを意識しすぎたあまりに業務に支障が出て、必要な機能を後から追加するという対応に追われる |
プラン内容の理解不足 |
プランに含まれる機能やサポートの範囲を確認しないまま契約してしまい、従業員から不満が出る |
プラン選びの失敗を防ぐためには、次のような対策をするとよいでしょう。
対策 |
詳細 |
企業規模とニーズの把握 |
自社の拠点数やユーザー数、通話量などを事前に把握し、必要な機能と予算のバランスを検討する |
機能要件の精査 |
基本機能とオプション機能をリストアップした上で、各部署のニーズをヒアリングする |
プラン内容を詳細に確認 |
サービス提供事業者からプラン内容の詳しい説明を受け、サポートや追加料金などの情報まで把握する |
コストシミュレーションの実施 |
特に安価なプランを選択する場合、将来的な機能追加やプラン変更も含めた総コストをシミュレーションしておく |
契約の柔軟性を確認 |
ニーズの変化や事業の成長に応じて、プラン変更が柔軟にできる事業者かどうかを確認する |
クラウドPBXを導入した際、サービス提供事業者のサポート体制が不足していると、導入初期の問題やシステムトラブルが発生した際に業務に支障をきたす可能性があります。
例えば、サポート窓口の対応が遅い、担当者の専門的な知識が不足しているなど、解決までに時間がかかってしまうこともあるでしょう。
サポート体制の不足がもたらす主な影響は、次のようなものです。
クラウドPBXのシステムはサービス提供事業者が管理しているため、その安定的な運用は事業者のサポート体制に依存します。導入後にサポート不足に悩まされる背景には、次のような原因があります。
原因 |
状況 |
サポート内容の確認不足 |
専門的なサポートが含まれているか、24時間対応が可能かといった点を確認せずに契約してしまう |
サポート窓口の対応力不足 |
トラブル発生時に、サポート担当者が迅速かつ適切な対応を行える体制が整っていない |
導入初期のトレーニング不足 |
従業員のシステム理解度に差があり、頻繁にサポート窓口へ問い合わせているメンバーがいる |
サポート体制の不足を防ぐには、事前に事業者のサポート内容や体制を見極めることが重要です。以下の対策を取ることで、サポート不足のリスクを軽減できるでしょう。
対策 |
詳細 |
サポート範囲の確認 |
発生可能性のあるトラブルへのサポート内容や、自社の業務時間への対応可否を事前に確認する |
サポートレベルのチェック |
トライアル期間などを活用して、実際にサポートのスピードや質をチェックする |
第三者の評価確認 |
他の利用者によるレビューや口コミを確認し、顧客満足度の高いサービス提供事業者を選択する |
契約内容の明確化 |
サポートに関する契約条件を明確化し、緊急時に必要なサポートを受けられるようにする |
トライアルによる練習 |
トライアル期間や事業者によるトレーニングを導入し、従業員がシステムに慣れる機会を設ける |
事業者によってはサポートが別料金になっていることもあるため、必要に応じて追加のサポートオプションなどの契約も検討してください。また、社内にもクラウドPBXについての知識やスキルを持った担当者がいると安心です。
クラウドPBXの導入時に既存の電話番号を引き継げず、番号の変更を余儀なくされるのも、よくある失敗事例です。特に、長年使用してきた番号の場合、取引先や顧客が混乱する可能性があります。
先述の調査でも、クラウドPBXを導入する際の具体的な懸念事項として「別途電話回線の契約が必要で手間がかかった(22.7%)」が最多でした。
やむを得ず電話番号を変更した場合、以下のような影響が考えられます。
クラウドPBXは、全てのケースで既存の電話番号を引き継げるわけではありません。
サービス提供事業者の中にはナンバーポータビリティ自体に対応していないところもあるため、次のような確認不足が原因で、予期せず番号を変更しなければならなくなるケースも存在します。
原因 |
状況 |
ナンバーポータビリティの可否の確認不足 |
従来の固定電話事業者とクラウドPBXのサービス提供事業者の両方が、ナンバーポータビリティに対応しているか、事前に確認していない |
地域や番号の制約の見落とし |
ナンバーポータビリティが利用できない特定の地域や番号が存在することを知らないまま契約を進めてしまう |
手続きやコストの把握不足 |
番号を引き継ぐための手続きの煩雑さやコストを考慮しておらず、契約後にバタバタする |
電話番号の変更をすることなくクラウドPBXを導入したい場合は、契約前に次のような対策をするようにしましょう。
対策 |
詳細 |
ナンバーポータビリティの確認 |
固定電話事業者がナンバーポータビリティに対応しているかを確認し、番号を引き継げるクラウドPBXの事業者を選択する |
手続き・コストの確認 |
電話番号の引き継ぎに必要な手続きや書類、対応にかかる期間やコストを確認する |
リスク管理 |
ナンバーポータビリティが利用できなかった場合のリスクや対応方法をシミュレーションし、万が一の際に備える |
過去事例の調査 |
クラウドPBXの導入事例をリサーチし、どのような流れで手続きを進めるのが効率的かを事前に理解しておく |
既存の電話サービスやPBXの契約期間が残っているにもかかわらず、クラウドPBXの導入を進めてしまうのも、失敗事例として知られます。この場合、電話サービスが二重に存在することになるため、特に費用面での影響が大きいといえるでしょう。
具体的なリスクとして考えられる事象は、次の通りです。
クラウドPBXの導入時に、二重契約や違約金の発生を引き起こす原因としてよく見られるのは、次のようなものです。
原因 |
状況 |
既存サービスの確認不足 |
契約終了時期や、解約手続きの詳細を確認しないまま、新サービスへの移行を進めてしまう |
ペナルティ有無の把握不足 |
既存サービスを途中解約した場合に、違約金などのペナルティが発生する可能性を考慮していない |
不十分な移行スケジュール |
新旧サービスの切り替えが適切に連動しておらず、業務の混乱や不要なコストが発生する |
既存の電話サービスからクラウドPBXへの移行をスムーズに行うには、以下の対策を実施するとよいでしょう。
対策 |
詳細 |
既存サービスの内容確認 |
現在の契約期間や解約の条件を確認し、「いつまでに解約の申出をすべきか」を明確にする |
切り替えタイミングの調整 |
二重契約やコストの増大を回避するため、新旧サービスの切り替え時期を調整する |
途中解約のコスト計算 |
既存サービスを途中解約する場合は、その際のコストをシミュレーションする |
事業者と移行の協議 |
クラウドPBXの事業者と協議し、移行スケジュールや切り替え時のサポート、トライアル時期を決定しておく |
移行手順の整備 |
新旧サービスの切り替えに必要なプロセスを整理し、移行中のトラブルや業務の混乱を最小限に抑える |
クラウドPBXの導入時に、実際の業務に対して「機能が過剰」あるいは「機能が不足」してしまうのも、失敗事例のひとつです。
クラウドPBXの代表的な機能には、内線・外線通話や転送、録音などがありますが、その他にも複数のサービスが提供事業者ごとに展開されています。Web会議や通話のモニタリング機能、分析機能、CRM連携などが代表例です。
多機能であるがゆえに、従業員の少ない企業で大規模なコールセンター機能を含むプランを選んでしまったり、逆に複数拠点の連携に必要な機能がなかったりするケースがあり得ます。
この場合、次のような影響が考えられるでしょう。
機能の過不足が発生する場合、業務に必要なクラウドPBXの機能精査が行われていない可能性があります。具体的には、次のような状況です。
原因 |
状況 |
規模・ニーズと機能の不一致 |
企業の規模や業務内容を把握しきれておらず、不要な機能を含むプランを選択してしまう |
必須機能の見落とし |
モバイル対応や複数拠点間の通話など、企業にとって欠かせない機能を見落とし、スムーズな運用ができない |
将来性の軽視 |
現在のニーズに合ったプランは選択できたものの、近い将来に必要となる機能までは考慮していない |
クラウドPBXを導入する際、機能の過不足を防ぐには、次のような対策が必要です。
対策 |
詳細 |
業務フローとニーズの明確化 |
現在の業務フローと通話ニーズを洗い出し、円滑な運用を維持するための機能をリスト化する |
将来的なニーズの勘案 |
数年後の成長や変化を見据え、必要に応じた機能追加のできるスケーラブルなプランを選択する |
不要な機能の省略 |
過剰な機能によるコスト増大を避けるため、可能な限り不要な機能が付加されていないプランでコスト管理を行う |
トライアルによる機能検証 |
トライアル期間を活用して、必要な機能の過不足を確認・調整する |
クラウドPBXの失敗事例には、インターネット接続の不安定さによる音声品質の問題や、適切なプランを選択できないことによるコストの増大など、さまざまな要因があります。
「事業者側のセキュリティ対策が不十分で不正アクセスが発生し、十分なサポートも受けられなかった」といった、複数の要因が重なり、より大きな問題となるケースも考えられます。
このような事態に陥らないためには、クラウドPBXの導入前に準備と情報収集をすることが大切です。
まずは、社内ネットワークの帯域確保やセキュリティ強化、ニーズの明確化といった事前準備を行いましょう。そして、事業者側のセキュリティ対策やプランの内容、サポート体制についてしっかり情報を収集して、自社に合ったサービスを選んでください。