インターネット回線を用いて提供される、ビジネス向けの電話サービス「クラウドPBX」。日本国内では、2000年代後半から光ファイバーを利用した高速インターネット回線が普及したことで、インターネットを用いた高品質で安定的な電話通信が可能になりました。
2024年に行われるNTT東日本・NTT西日本のアナログ回線廃止にともない、従来型の電話からの移行先としての需要が増える見込みです。また、従来の電話システムからの移行に後押しされ、新規企業による需要も高まっています。
クラウドPBXは電話通信に使用する機器がインターネット上にあるため、自社で設備を用意する必要がないことも企業の導入を後押ししています。通信に必要な機器の新規導入や、回線工事などの必要も無く、運用・管理が低コストで済むのは魅力です。
利便性が高い一方で、クラウドPBXはインターネット上のクラウドシステムを利用する電話システムのため、音声品質の問題やセキュリティリスクなどのデメリットもあります。この記事では、システム導入時に知っておきたいクラウドPBXのデメリットと、従来型のPBXと比較した際のメリットを解説します。
クラウドPBXには導入しやすさなど多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットもあります。ここでは3つのポイントからそれぞれのデメリットについて説明します。
クラウドPBXはインターネット回線を用いた通信サービスであるため、ネットワークの遅延やパケットロスに影響される可能性があります。これは、インターネット接続が不安定な場合やネットワークの帯域幅が限られている場合、特に顕著になります。
インターネット回線が不安定な場合、通話の遅延や音声の途切れ、音声が反響して聞こえるエコーなどの問題が発生することがあり、ビジネスにおいては重大な影響を与えかねません。
そのため、従来のPBXは品質が低いと考えられることが多くありました。しかし、これはインターネット回線が脆弱だったために起きた問題です。近年のインターネット回線の高速・安定化により、通話品質も大きく改善され、電話と変わらない品質で通話可能なサービスも多くなりました。
総務省によると全国の5G人口カバー率は96.6%であり、携帯キャリア回線を利用するスマートフォン等であれば、今はほとんどの場所で通信が可能です。クラウドPBXを利用しても通話品質に大きな問題は生じないでしょう。
ただし、オフィスに自社専用の通信回線を整備している場合は、クラウドPBXの導入によって通信量が増え、通信が不安定になる可能性があります。現在の使用帯域や最大通信速度などを確認し、必要に応じて通信環境の整備を行ってください。
クラウドPBXでは、通話やデータのやり取りがクラウド上で行われます。そのため、インターネット回線や機器のセキュリティ対策が十分ではない場合、悪意のある第三者による情報漏洩やハッキングなどセキュリティ上のリスクが生じます。
そこで、データの保護や通信の暗号化など、適切なネットワークのセキュリティ設定を行うことが重要です。社内で情報セキュリティ研修を実施するなど、データを取り扱う社員のセキュリティ意識を高める教育も必要になります。具体的には、使用するパソコン・スマートフォンのOSや通話用アプリなどを、常に最新バージョンにアップデートしておく必要があります。また、クラウドPBXの選定時に、十分なセキュリティ対策を講じているサービスを選ぶことも重要です。通信の暗号化や二段階認証、二要素認証などを備えているサービスなら、セキュリティリスクを抑えられます。
ただし、クラウドPBXをはじめとしたクラウドサービスは、ユーザーがサービス自体のセキュリティ設定や管理を行えない特徴があります。サービスプロバイダに管理を委託できると考えれば、ユーザー側のコスト削減に繋がりますが、サービスプロバイダがデータを適切に管理しない場合、企業の重要な通信データが不正にアクセスされる可能性もあります。
そのため、サービスプロバイダがクラウド上のデータを適切に保存しているかどうか、セキュリティ対策やデータプライバシーに関する規制に対応しているかどうかを慎重に評価する必要があります。
クラウドPBXを利用する場合、サポート体制の品質や可用性も重要な要素です。
サービスによっては、自社にとって十分な技術サポートや迅速なトラブル対応が提供されない可能性があります。問題が発生した場合、クラウドPBXサービスの停止や通信の中断など、ビジネスに大きな影響を与えることがあります。
また、サービスプロバイダが十分なトレーニングや教育を受けたサポートスタッフを提供していない場合、問題解決や技術的なサポートが遅延する可能性もあります。それぞれのサービスのサポート体制やサービス品質保証(SLA・Service Level Agreement)など、事前にベンダーが提供するサポート内容を詳しく確認しておきましょう。
特に電話サポートの受付時間や問い合わせ手段は、確認しておくべきポイントです。例えば24時間365日の電話サポートを受け付けているサービスなら、トラブルが起きても早急に問い合わせができます。
一方、「問い合わせ手段がメールのみ」「電話サポートは10:00〜17:00」といったサービスは緊急時にスムーズにベンダーと連絡が取れない可能性があるため、避けたほうが良いでしょう。
クラウドPBXの導入時に、電話番号が変更になるケースがあります。既存の電話番号をそのまま引き継ぐには「ナンバーポータビリティ」(電話番号を継続して利用する制度)を利用する必要があり、固定電話事業者とクラウドPBX事業者の両方が対応していなければなりません。
電話番号が変更になれば問い合わせを取りこぼしてしまう恐れがありますし、取引先や顧客への周知、印刷物の修正などに手間とコストもかかります。現在の電話番号をそのまま使用したい場合は、事業者へナンバーポータビリティ対応の可否について忘れずに確認しましょう。
また、FAXも電話番号と同じくサービスによって利用できるかどうかが異なります。とくに複合機のFAX機能はインターネット回線未対応が多いため、こちらも事前確認が必要です。
では、クラウドPBXのデメリットを解消するためには、どのような対策が必要でしょうか。それぞれの解消方法について解説します。
安定したインターネット接続が求められるクラウドPBXでは、社内ネットワーク環境の整備が必須です。クラウドPBXはリアルタイム通信に依存するため、十分な帯域を確保することが安定した通話品質につながります。
社内ネットワークは、業務システムやWeb会議などさまざまな用途で使われますが、通信トラフィックがひっ迫気味だと通話品質に影響を及ぼしかねません。クラウドPBXを導入する際には、必要な帯域幅(通信速度の上限)を確保できるかどうかを確認しましょう。通話に必要な帯域については、利用するサービス提供事業者に確認してください。
サービス提供事業者側のセキュリティ対策はもちろん、社内における対策・教育も必要になります。サービス提供事業者では、通信の暗号化や二段階認証、通話ログの確認などのセキュリティ対策をしており、プランによって内容はさまざまです。
日本工業規格のプライバシーマークや国際規格のISO27001/ISMSなど、第三者認証を取得しているかどうかも比較検討の材料になります。より信頼性の高いサービスを選択するとよいでしょう。
社内ではVPN接続やファイアウォールの設定を適切に行うことで、不正アクセスといったセキュリティ事故のリスクを軽減できます。また、従業員への教育も重要です。セキュリティリスクについて理解し、行動に気をつけることで情報漏えいなどのリスクを回避できます。
導入から運営中のトラブルまで、十分なサポートを受けられるサービス提供事業者を選びましょう。
事業者によってはサポートが別料金になっている場合があるため、必要に応じてオプションの追加を検討してください。
サポート内容だけでなく、電話サポートの受付時間や問い合わせ手段も確認しておきたい要素です。受付時間が限られている場合、緊急時に連絡が取れず業務に支障をきたす可能性があります。24時間365日対応可能な事業者が望ましいでしょう。加えて社内に知識やスキルを持った担当者がいると迅速な対応ができて安心です。
また、多くの事業者ではトライアル期間を設けています。自社の通信環境下で実際に試すことで、通話品質や機能性、使用感などを確認できますのでぜひ利用しましょう。設定・トラブルへの対応や導入時の課題も洗い出せておすすめです。
クラウドPBX導入時に電話番号の変更を避けたい場合は、事業者がナンバーポータビリティに対応しているかどうかを確認してください。
ナンバーポータビリティとは、現在使用中の電話番号を変えることなく継続して使用できる制度のこと。主にNTT東日本・NTT西日本で取得した一般加入電話などが対象です。
ただし、ナンバーポータビリティによる電話番号の引き継ぎは、固定電話事業者とクラウドPBX事業者の両方が対応していなければなりません。また、引き継ぎできる市外局番は限定されるため、事前確認を忘れずに行いましょう。
専用線を用いて内線や外線などの電話通信を行う従来型のPBXと、インターネット上にある電話通信システムを利用するクラウドPBXは、大きく仕組みが異なっています。それぞれの違いを比較し、クラウドPBXが持つメリットについて説明します。
従来型のPBXは、社内に交換機を設置し専用回線を敷設することで内線や外線の使用が可能になる仕組みです。そのため、専用の通信機器をオフィス内に設置しなければならず、配線やハードウェアの導入、定期的なメンテナンスなど、導入・運用コストが高くなるデメリットがあります。
一方、クラウドPBXではインターネット経由で通信が行われるため、物理的な通信機器を社内に用意する必要がありません。企業は通信機器の購入や設置、メンテナンスにかかるコストや手間を削減できます。
クラウドPBXは、従来型のPBXよりも豊富な機能が利用可能になります。
電話の発着信を行う機器がクラウド上にあるため、インターネットにつながる環境であれば会社の電話番号を使用して着信や発信ができます。また、社内にいなくても社員同士や拠点同士で内線を使用可能です。
サービスによっては、留守番電話や保留、FAXなどの従来型のPBXでも使用できていた機能はもちろん、事前に登録している顧客情報を着信時に表示させる機能や、特定の時間帯や曜日に合わせたメッセージを設定できる音声ガイダンス機能など、クラウドPBXならではの機能があります。このほか、以下のような機能があるサービスもあります。
従来型のPBXの場合、社内の専用回線を通してしか電話が行えないため、社外からは社内の電話システムを通した発着信が行うことができません。しかし、クラウドPBXはインターネットに接続できる環境であれば利用する場所を問わないため、社外からスマートフォンなどを利用して内線や外線を使用できます。
クラウドPBXでは、社内のネットワーク構成を柔軟に変更できます。従来型のPBXの場合、ネットワーク構成の変更には新たな機器の増設や配線工事が必要でした。クラウドPBXでは、インターネットから使用しているサービス上で設定を行うだけで容易に変更できます。
そのため、新しいユーザーの追加や削除、部署の移動などの組織の変更の際にも、リアルタイムで対応が可能です。変更に必要な費用も最小限に抑えることができます。
クラウドPBXの運用・管理は、従来型のPBXよりも簡単で効率的です。
通信システムの管理やトラブルシューティングは、クラウドPBXのサービスプロバイダが担当するため、企業内に専門の人材を用意するといった社内のリソースを割く必要がありません。
サービスプロバイダはシステムの監視やバックアップ、セキュリティ対策などを専門的に行い、問題が発生した場合にも迅速に対応可能です。これにより、企業は電話通信の管理にかかる負荷を軽減し、他の重要な業務に力を入れられるようになります。
ただし、運用・管理をどの程度自社に合わせてカスタマイズできるかは、サービスプロバイダや契約内容によって異なります。契約前に自社に必要な要件を満たしているか、必ず確認するようにしましょう。
クラウドPBXのデメリットには通話品質の低下、インターネット回線への依存、セキュリティリスク、サポート体制の課題があります。これらのデメリットを最小限に抑えるためには、適切なインターネット回線の確保やセキュリティ対策の強化、信頼性の高いサービスプロバイダの選択などが重要です。
自社の現状とニーズからクラウドPBXのメリット・デメリットを総合的に評価し、自社に合ったクラウドPBXの導入を検討してみてはいかがでしょうか。