そもそもWebRTCとは何か、簡単におさらいしておきましょう。WebRTC(Web Real-Time Communication)とは、Webブラウザだけでリアルタイムに映像・音声のやり取りができる技術のことです。以前はビデオ通話をするにも専用アプリやプラグインが必要でしたが、WebRTCの普及によって、ブラウザだけで手軽に通話ができるようになりました。
ただ、WebRTC自体は通信の仕組みを定めた規格にすぎません。実際にサービスとして安定運用しようとすると、SFUサーバーの構築や大規模配信への対応、録画、品質のモニタリングなど、開発者が自前で用意しなければならないことがたくさんあります。ここを肩代わりしてくれるのが、Agora・Twilio・SkyWayといった商用SDKです。
遅延の具体的な数値は、各社とも公表していないケースが多いのが実情です。本記事では、公式サイトや公式ドキュメントで確認できた情報のみを記載し、非公表の項目は「非公表」と明記しています。一方、同時接続数の上限は多くのサービスで公開されており、規模感を判断する分かりやすい指標になります。
料金体系は大きく「完全従量課金型」(Twilio、Amazon Chime SDK、Vonage)と「月額固定+従量課金型」(SkyWay、Sora)に分かれます。小規模から始めたい場合は従量課金型が向いていますし、大規模利用がすでに見込まれている場合は固定ライセンス型のほうがコストを見通しやすいでしょう。
どこの国の、どんな会社が運営しているかは、サポートの受けやすさに直結します。SkyWay(NTTドコモビジネス)やSora(時雨堂)のように完全に国内で開発・運営されているサービスもあれば、Agora(Agora Inc.+ブイキューブ)やVonage(Vonage+KDDIウェブコミュニケーションズ)のように、海外企業と日本の代理店・提携企業が窓口になっているサービスもあります。
近年は、会話型AI(音声認識からLLM、音声合成までをリアルタイムで連携させる仕組み)への対応が、選定の分かれ目になりつつあります。標準機能として用意されているか、自前で実装する必要があるかによって、開発工数は大きく変わってきます。
| サービス名 | 料金体系(目安) | 同時接続数の上限 | 運営会社/日本サポート | ネットワーク特性 | 特記事項・注意点 |
|---|---|---|---|---|---|
| Agora SDK | 従量課金(開発中は音声月1万分等の無料枠あり) | 用途により数万人規模まで対応 | Agora Inc.(米国)/ブイキューブが日本語で一次対応 | 独自ネットワークSD-RTN™(世界200以上の国・地域、250以上の拠点)※自社公表値:遅延30〜200ms、パケットロス耐性最大70% | 会話型AI(Conversational AI Engine)を標準搭載 |
| Twilio Video※ | Group Rooms:$0.004/参加者・分 | 1ルーム最大50人 | Twilio Inc.(米国)/Twilio Japan合同会社が直営 | 汎用クラウド網(標準WebRTC) | 2026年12月5日にサービス終了予定。新規顧客の受け付けは既に停止(詳細は後述) |
| Amazon Chime SDK | 単一レート $0.0017/参加者・分(音声・映像・画面共有の区別なし) | 標準セッション250人(メディア複製で最大10,000人まで拡張可、要申請) | Amazon Web Services(米国)/AWS Japanサポート枠内で対応 | AWSグローバルインフラ | 既存のAWS環境(IAM・請求等)との統合がしやすい |
| SkyWay | Free:0円(開発検証用)/Enterprise:月額110,000円(税込)+従量課金 | SFU利用時 最大100人(推奨は数人〜数十人規模) | NTTドコモビジネス株式会社(国内企業) | 国内リージョン(東京・大阪)中心 | 2025年に旧NTTコミュニケーションズより社名変更 |
| Vonage Video API | 完全従量課金 $0.0041/参加者・分(月額プランなし、初回100,000分無料) | 最大15,000参加者(アクティブ発言者25人まで) | Vonage(米国)/KDDIウェブコミュニケーションズ経由で日本語契約・請求書払い対応 | 汎用クラウド網(旧OpenTok構成) | 2024年よりKDDIウェブコミュニケーションズとの業務提携を開始 |
| LiveKit | Build:$0/Ship:月額$50〜+WebRTC通信$0.0005/分/Scale:月額$500〜 | Cloud利用時 数千〜万規模まで拡張実績あり(プラン依存) | LiveKit Inc.(米国)/英語中心 | 分散型グローバルネットワーク(公式は「250ms未満での配信」を標榜) | OSSとしてセルフホストも可能。LiveKit Agentsで音声AI連携が容易 |
| Sora | 本番ライセンス制(例:100接続・12ヶ月契約で84万円、税別) | 双方向:推奨12接続(スポットライト機能利用時100名以上)/片方向配信:1万接続程度(クラスター利用で数万〜数十万規模) | 株式会社時雨堂(完全国内企業・自社開発) | 国産SFU。プレイアウト遅延を0〜40,950msの範囲で細かく制御可能(バッファ調整機能) | 従量課金ではなく固定ライセンス制。大規模・長期利用で単価が安定しやすい |
※各社の遅延の実測値は非公表のものが多く、Agora以外は本表に記載していません。
ライブ配信・ビデオ通話・音声通話に対応するWebRTC対応API/SDKです。日本国内では株式会社ブイキューブが総代理店として、販売から技術サポートまでを担っています。RESTful APIと組み合わせれば、リアルタイムの文字起こしや録画にも対応できます。会話型AI機能(Conversational AI Engine)を標準搭載しており、ASR(音声認識)からLLM、TTS(音声合成)までの連携を一括管理できる点が特徴です。
独自ネットワーク「SD-RTN™」により、自社公表値では平均30ms〜200msという低遅延を実現しながら、最大70%のパケットロスが発生しても音声や映像が途切れにくい耐性を備えています。また、開発期間中は毎月10,000分までの無料トライアル枠があり、費用をかけずに検証を進められます。
より詳しい機能一覧や、自社に近い業界の導入事例を知りたい方は、こちらの資料もご活用ください。
電話・SMS機能で知られるTwilioが提供するビデオ通話SDKです。2023年に一度サービス終了が発表され、2024年に終了日が2026年12月5日へ延期されましたが、終了そのものが撤回されたわけではありません。既存ユーザーの方は、契約更新のタイミングで移行計画を立てておく必要があるでしょう。
すでにTwilio Videoで実装している場合、Agora Video SDKへの移行ガイド(Web版/iOS版/Android版)も公開しています。SDKのインストールからセッション開始、トラックの公開・破棄、退出処理まで、コードレベルでの対応関係を解説しています。
※本記事執筆時点(2026年9月)で新規顧客の受け付けはすでに停止されています。
AWSが提供するリアルタイム通信コンポーネントです。音声・映像・画面共有・メッセージングを、単一レートの従量課金でまとめて利用できます。すでにAWS環境(IAM、請求、Transcribe等)を使っている場合は、統合のしやすさが大きなメリットになるでしょう。会話型AIのような高度な音声AI連携については、Amazon TranscribeやBedrock等と組み合わせた自前構築が必要です。
より詳細な機能・料金比較は「AgoraとAmazon Chime SDKの比較」もあわせてご覧ください。
NTTドコモビジネスが提供する国産WebRTC SDKです。2023年のリニューアルで、同時通信人数を20人から100人に拡大しました。国内リージョンを中心とした運用と、通信キャリア系企業ならではのサポート体制が特徴です。少人数〜中規模の通話用途や、国内サーバー指定が必要な案件との相性がよいサービスといえます。
TokBoxやNexmo等が統合されたVonageが提供するビデオAPIです。参加者数に応じた完全従量課金制で、月額プランはありません。ビデオAPI分野では比較的歴史の長いサービスで、機能の網羅性に加え、HIPAA対応やエンドツーエンド暗号化といった、ヘルスケア・金融領域で求められるセキュリティ要件へのオプション対応も用意されています。
オープンソースのリアルタイム通信基盤です。セルフホストでの運用も、マネージドサービスの「LiveKit Cloud」を使うことも選べます。LiveKit Agentsという音声AIエージェント向けのフレームワークを標準で提供しており、OpenAI Realtime API等との連携がしやすい点が、近年注目を集めています。料金体系はBuild/Ship/Scale/Enterpriseの4段階です。
時雨堂が開発する国産WebRTC SFUです。従量課金ではなく、同時接続数とライセンス期間に応じた固定ライセンス制を採用しています。オンプレミスや自社クラウドへの導入を前提としており、開発からサポートまで100%国内で完結する体制が強みです。プレイアウト遅延(再生時のバッファ)を0〜40,950ミリ秒の範囲で細かく制御できる独自機能も備えています。
会話型AIが急速に広がる中、各SDKが「リアルタイム音声AI」(音声認識・LLM・音声合成をリアルタイムに連携させる技術。代表例はOpenAI Realtime API)にどこまで対応しているかも、選定における判断材料の一つになりつつあります。その中でも、AgoraとLiveKitは先行して強力に対応しています。
| サービス | Realtime API対応状況 |
|---|---|
| Agora | 標準搭載。Conversational AI EngineがOpenAI Realtime APIと統合されており、音声認識・LLM・音声合成の連携を一括管理できる |
| LiveKit | 標準搭載。LiveKit Agents経由でOpenAI Realtime API等、主要モデルを公式にサポートしている |
| Twilio | 条件付き。ただし対応しているのは本記事で比較しているVideoではなく、別製品のVoice(電話)。Conversation Relay機能で任意のLLMと自前連携する形式で、OpenAI Realtime APIへの直接接続は本記事執筆時点でパイロット版(限定公開)の段階 |
| Amazon Chime SDK | 公式な直接連携は確認できず。Amazon Transcribe等と組み合わせた自前構築が必要 |
Agoraの会話型AI機能について詳しく知りたい方は、Agora Conversational AI Engineもあわせてご覧ください。
【SDKの選定・導入を相談したい方はこちら】
従量課金の単価だけでは、単純に比較することができません。参加人数や利用時間、録画の有無といった条件によって総コストが変わってくるため、実際の利用条件でシミュレーションしてみることをおすすめします。
【基本料金がわかる・運用コスト削減】Agora コスト最適化ガイド
大きな違いは、料金体系(Chimeは単一レート、Agoraは機能別)と、AI連携機能(Agoraは会話型AIを標準搭載)にあります。すでにAWS環境をお持ちの場合はChime、AI音声対応を重視する場合はAgoraを検討されるとよいでしょう。
多くの商用サービスが無料枠を用意しています。Agoraは毎月10,000分(動画・音声含む)の無料枠が開発期間中継続し、SkyWayも開発・検証時は無料(月単位の利用上限あり)で試せます。LiveKitもBuildプランで無料枠があります。Sora・Twilio・Amazon Chime SDK・Vonageは基本的に従量課金ですが、Vonageには初回100,000分の無料トライアルがあります。まずはアカウントを作成し、開発のしやすさと品質を実際に試してみることをおすすめします。
SDKの仕様が異なるため、コードをそのまま置き換えることはできません。ただし、映像・音声通話の基本的な実装の考え方は共通する部分が多く、SkyWayで使っている機能の多くはAgora SDK側にも同等のものが用意されています。移行を検討する際は、まず現在の実装でSkyWayのどの機能(通話・録画・画面共有など)を使っているかを整理し、それぞれAgoraでどう置き換えられるかを確認していくのが一般的な進め方です。こうした技術検証や設計のご相談は、Agoraの開発支援サービスでも承っています。
Twilio Videoは新規顧客の受け付けをすでに停止しており、2026年12月5日にサービス終了が予定されています。新規プロジェクトで検討する場合は、この点を踏まえて判断する必要があります。すでにTwilio Videoで運用中のサービスからの移行を検討している場合は、Agoraへの移行ガイド(Web/iOS/Android版)も参考にしてください。
※本記事の料金・仕様は2026年9月時点の公式情報にもとづきます。最新情報は必ず各社公式サイトでご確認ください。