WebRTCの商用サービスとは
そもそもWebRTC自体がどういうものなのか、まずはそこからご説明していきましょう。WebRTCとは、Webブラウザだけでリアルタイムにコミュニケーションがとれる(Real Time Communications)技術のこと。その頭文字を取ってWebRTCと呼ばれています。
WebRTCが主流になるまでは、ビデオ通話をするにもプラグインと呼ばれる拡張機能や専用アプリを使う必要がありました。しかし、WebRTCを使えばWebブラウザだけでビデオ通話が可能になるのです。使うまでの手間がかからないため、使い勝手のいい技術といえます。
そんなWebRTCには、どんな技術が使われているのか、簡単に解説します。
P2P通信とは
まずはP2P(ピア・ツー・ピア)通信についてご紹介します。P2P通信はファイル共有ツールや、LINEなどの通信方式で利用されている通信技術の1つです。通常であればサーバーを介してファイルを共有するのが一般的ですが、P2P通信を使えば端末同士で双方向的にファイルをやりとりできるようになります。
サーバーにもしものことがあっても通信が途絶しにくいなどのメリットがあり、ファイル共有ソフトや、WebRTCを利用した一部の通信、ブロックチェーン技術などに応用されています。
Agoraなどのプラットフォームは、WebRTC技術を利用してリアルタイムのビデオ通話や音声通話を提供しています。
WebRTCやP2P通信という言葉を知らなくても、生活に根ざしたサービスに使われていることがわかります。
SFUサーバーとは
WebRTCに使われているのがSFU(Selective Forwarding Unit=選択転送ユニット)サーバーです。先程のP2P通信はサーバーを介さずリアルタイムで端末同士が通信できる技術でしたが、音声や映像をSFUサーバーを介して、他の参加者へ選択的に転送する役割を担います。P2P通信とは違って端末同士のやりとりではないため、多人数接続時にクライアント端末の負荷(特にアップロード帯域やCPU処理)が参加者数に応じて急増するのを大幅に軽減できます。
SFUサーバーの利点を生かすことで、大人数での会議といったユースケースになどにも適しています。
商用サービス(=クラウド型)のメリット
次に、WebRTCの商用サービスを使うメリットについてご紹介します。
- 通信が高品質
- あらゆるデバイスで利用可能
- 会議に利用可能
- レコーディングが可能
- サーバー運用が不要
- 営業活動や顧客対応などの商用利用も可能
- ライブ配信対応可能
上記7つのメリットがあります。SFUサーバーを使っているため、どんな端末からでも接続が可能で高品質な通信を実現してくれます。そして、大人数の双方向通信ができるため、会議や営業活動、顧客対応だけでなく、ライブ配信などにも対応可能。録画・録音などもできます。自社でサーバー運用をする必要もないため、新たな人員を割くことなくすぐに利用開始できるのが、大きなメリットです。商用サービスを利用することで、開発・運用の効率化に大いに役立ってくれるでしょう。
WebRTCの商用サービスまとめ
では次に、WebRTCの商用サービスを国内外の企業含めてご紹介していきます。それぞれのサービスによって特長が異なるため、自社の仕事にどのように活かせそうかを想像しながらご覧ください。
Agora(Agora SDK)

Agora SDK(agora.io)はライブ配信・ビデオ通話・音声通話が可能なWebRTC対応のAPI/SDK。
RESTful APIと組合せてリアルタイムの文字起こし、録画などを実現することが可能です。
国内での提供
Agoraは、米国企業が提供するサービスですが、日本国内では株式会社ブイキューブが総代理店として販売だけでなく技術サポートまで行っています。
知名度
2014年創業。グローバルでリアルタイムエンゲージメントAPIを提供し、利用されている国は100カ国以上に及びます。2024 年には、アジア太平洋地域(APAC)において最大のシェアを確立するなど、日に日に知名度を高めています。
特長
ライブ配信やオンライン通話においては、WebRTCの最大の課題であった大規模なアクセスに耐えられないという課題を解決し、同時に100万人規模という大規模な通信を可能にしました。4Kまでの高画質にも対応。
また、AgoraのAVO(ユーザーのネットワーク環境に合わせたビデオの最適化技術。Adaptive Video Optimization™の略)はリアルタイムの映像配信を最適化し、低遅延と高画質を実現しています。
運用・開発面においては、利用分数に応じた従量課金で利用できるため、固定費用が無く必要な分だけしか費用がかからないというメリットがあります。また、Agoraは各プラットフォーム・開発言語に対応していて自社システムへの統合が容易にできるほか、APIやサンプルコードも充実しています。
サポートも日本語はもちろん、英語・中国語によるテクニカルサポートが充実しており、日本のエンジニアによる伴走支援も行っています。
>Agoraの無料トライアルをみる
>[ブログ記事]実装例・サンプルコードをみる
Twilio

Twilioは、リアルタイムのビデオ・音声通話など、さまざまなコミュニケーション機能をアプリケーションに組み込めるクラウドAPIサービスです。
国内での提供
米国企業が展開しているサービスです。
知名度
電話やSMS機能の印象が強いですが、ビデオ通話・音声通話機能も備えた SDK も提供しており、Web ベースのリアルタイムコミュニケーション実装を容易にしています。
特長
電話やSMS機能との連携が簡単にできるという特徴を持っています。例えば、APIを使って開発しておくと電話やSMS、FAXなどの他デバイスを制御することも可能ですし、電話システムをクラウド上につくれるので、他のクラウドサービスとの連携を図り、パソコン・タブレットと連携させて簡単にコールセンターをつくることもできます。
オペレーター不在時の自動応答・チャットへの誘導や認証機能を活用した不正ログイン防止などにも活用可能です。
SkyWay

あらゆるリアルタイムコミュニケーションが可能なWebRTCサービスのSkyWay。
国内での提供
NTTコミュニケーションズが提供・販売しているサービスです。
知名度
NTTコミュニケーションズが展開しているサービスのため、WebRTCを扱う日本企業としては知名度が高いといえるでしょう。
特長
サービスの歴史も長く、WebRTC全般への知見も深いのが特長です。
2023 年から Skyway の新バージョンの提供が開始し、開発・検証時は無料で利用が可能となっています。
Vonage Video API(Opentok)

Vonage Video APIは、以前はTokboxが提供していたWebRTCサービス「OpenTok」でした。現在はTokbox、Nexmo、NewVoice Media、VonageがVonageという会社に統合され、提供者の名前が変更されています。統合したことによって4社それぞれの技術を活かし、柔軟なクラウドコミュニケーションプラットフォームを構築したため、ユーザーにとっては価値ある変更といえるでしょう。
国内での提供
社名から見ても想像できるように米国企業ですが、アメリカ以外の拠点も豊富でイギリス・ポーランド・スペイン・イスラエル・ドバイ・シンガポール・香港・上海・日本などに拠点を持っています。日本国内に代理店はありません。
知名度
2024 年には、株式会社KDDIウェブコミュニケーションズとの業務提携が発表され、今後更に知名度が上がっていくと予想されます。
特長
サービスの歴史は比較的長く、一通りの機能が備わっているのが最大の特長。すべてのデバイスに互換性を持っているため、どのデバイス間でも安定的に利用が可能です。長く・高品質なパフォーマンスを見せてくれるので安心。
ビデオ通話を埋め込む際は一行のコードだけでOK。サーバー側に実装する必要はありません。簡単な埋め込みが可能なクラウド通信プラットフォームです。
Amazon Chime SDK

>参照:Amazon Chime SDK商品紹介ページ
Amazon Chime SDK を使用すると、開発者は機械学習によるリアルタイムの音声、ビデオ、メッセージングを簡単にアプリケーションに追加することができます。
国内での提供
Amazon Chime SDKは、awsが提供・販売しているサービスです。
知名度
awsが展開しているサービスのため、圧倒的に知名度が高いといえます。
特長
リアルタイム通信コンポーネントのセットで、これを使用すると、メッセージング、オーディオ、ビデオ、および画面共有機能を自社のWebまたはモバイルアプリケーションに迅速に追加することができます。
Live kit

開発者がカスタムのリアルタイム音声・ビデオ体験をアプリケーションに組み込むためのオープンソース基盤です。拡張性の高いサーバーと、多様なプラットフォームに対応する開発キット(SDK)を提供します。完成されたアプリケーションではなく、柔軟な開発基盤の提供に重点を置いています。
国内での提供
主にセルフホスティングを通じて利用可能です。日本の開発者は、オープンソース版のサーバーを任意のインフラ上に自由に展開できます。日本に特化した公式事業体はありませんが、商用マネージドサービス「LiveKit Cloud」も提供されており、これが国内でのPaaS選択肢となる可能性があります。
知名度
比較的新しいプロジェクトですが、モダンな仕組み、拡張性、そして優れた開発体験で評価され、急速に注目を集めています。特に先進的なリアルタイム通信の実装を求めるグローバルな開発者コミュニティ内での評価が高いです。国内市場全体での認知度はまだ発展途上と考えられます。
特長
分散型で拡張性の高い通信処理の仕組みが中核です。Webやモバイルアプリなど主要な環境に対応した開発キット(SDK)を提供し、開発の柔軟性が高いです。接続が途切れても復旧しやすいなど、安定性や性能に重点が置かれています。様々な通信環境に対応する技術も備えています。セルフホスト版(OSS)とマネージド版(Cloud)の選択肢があります。
まとめ
今回ご紹介したWebRTCの商用サービスのように、大規模アクセスが可能なWebRTCが増加したことによって、より大規模なサービスへのリアルタイム通信の組み込みが可能になってきています。
単に映像と音声で通信できるというだけでなく、さまざまなサービスにつながる可能性を見せてくれるWebRTC商用サービス。自社サービスに組み込むことで何が実現できるのかを考えてみると、さらに広がりを持った利用方法を作り出せるかもしれません。
それぞれの特長を参考に、ぜひWebRTCの利用検討を始めてみてはいかがでしょうか。